臨時認知テス(2019年1月某日)


 高齢者臨時認知テストの手紙が舞い込んだ。
私は臨時にこのテストを受けなければ免許取り消しとなるというお上の通知だ。このお上は絶対権力者だから運転を継続するつもりなら絶対に逆らえない。
 テストを受けなくてはならない理由は、交通規則に違反したからだと紋切り型で、具体的には書いていない。私は前述のような事故を起こしたのが違反なのかもしれない。あるいはその後、車線変更禁止区域で黄色の線が逆光で見づらくて車線を変更したのだが、隠れていた婦警に御用となり、問答無用と罰金6000円ほど取られた。これが理由なのか。あるいは二つの総合でそうなのかなにも定かではない。いずれにしても受けなくてはならないのだ。
 若い人なら、罰金刑だけで済んだのだろうが、高齢者になるほど鞭打たれる感じでうんざりする。認知テストで締め上げて、免許書返納を勧めているのかもしれない。ただ、確かに高齢者ドライバーの事故が目立つから、道路に向かってしっかり注意を促すための作戦ではあろう。それを感じたのは、わざわざ鮫洲の運転免許取得試験場まで行かなくてはならないことだった。そしてテスト30分前までに来ないとテストが受けられない場合もあるといやらしい。私の使う電車路線はたまに遅れるから相当早く家を出た。まったく一日がかりのテストになった。こうなると慎重運転で絶対に違反してはならないと心に呟く。だが、人間は聖書も指摘するように完璧でないから、うっかり事故はつきものだが、私は完全を目指さなくてはならないのだ。
 認知テストの最大の難関は16の絵を記憶しなくてはならないことだ。一枚の紙にトマトとかペンギンとか4つの絵が描かれていて、それが四枚ある。だから16コマの絵を覚えこまなくてはならないのだ。しかもいやらしいことに絵を見た後に違う作業をしてから、その16コマの絵を文字でトマトとかやかんとか表記していくのだ。
 認知テストはいくつもの作業があり、最低で45点以上取っていればパスのだが、私の場合はもう一つの難関があるのだ。それは以前教習所の高齢者講習会認知テストで90点を取っていたのだが、今回のこのテストでそれより悪いと私は教習所で2時間の講習を受けなくてはならない旨、赤字で呼び出しの書類に記されていた。これがプレッシャーなのだ。それは講習会がいやだというのではなくて、教習所が遠いので、それを受講するのに半日も時間を費やしてしまうからだ。教習所で75点だった人はそれ以下でなければよいのだが、私はこの鮫洲のテストでは90点取れるかどうか自信がないのだ。なぜならここは試験場だ。要するに警察場だから神経をピリピリさせていてどこまで暗記できるかが心配なのだ。これは皮肉な現象だと思う。教習所で一生懸命認知テストを受けて良い点を取ったのに、それがあだ花になる可能性もあるからだ。
 30人ぐらいの高齢者ドライバーが教室に入りテストだ。みな緊張している。いくつかのテストの後でいよいよ16個の絵を覚えこむ作業だ。最初の絵は戦車、太鼓、目、ステレオだった。どういうわけか16の絵がスート頭にしみ込んだ。テストがすべて終わり、20分後に結果の発表だ。私のは98点だった。ほぼパーフェクトでホッとした。あとから思い出したが「やかん」の絵が脳に浮かんでこなかったのだ。
 こういった具合だから、この臨時の認知テストは高齢者に対するきつい締め付けだ、高齢者いじめだと感じている。でも高齢者の事故が多いから仕方がない。高齢者の運転には最大の神経を使わなくてはなるまい。